アニソンブログ ア・ラ・カルト

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破壊されたアニソン生態系と、アニソン業界の現在地を書き記す

 2022年のアニソンが様々な場所で話題となったのは記憶に新しいことだろう。


 『SPY×FAMILY』のOfficial髭男dismの歌うOPテーマ「ミックスナッツ」や星野源の歌うEDテーマ「喜劇」、『劇場版 呪術廻戦0』King Gnuの歌う主題歌「一途」、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』YOASOBIの歌うOPテーマ「祝福」、『チェンソーマン』の米津玄師の歌うOPテーマ「KICK BACK」、VaundyやEveといった豪華なアーティストを起用した毎話変わるEDテーマなど、現在の邦楽のトップランナーたちが書き下ろした珠玉のアニソンはどれも世間を大いに賑わせた。


 他にも、興行収入190億円を突破した映画『ONE PIECE FILM RED』のAdoの歌う主題歌「新時代」Apple Musicのグローバルチャートで、『進撃の巨人 The Final Season』SiMの歌うOPテーマ「The Rumbling」米国のビルボードチャートでそれぞれ1位を獲得。2022年の年末には『ぼっち・ざ・ろっく!』のアルバム「結束バンド」iTunesの世界アルバムランキングでトップ10に入る快挙を成し遂げた。

 そして2022年の日本のビルボード年間総合チャート1位に輝いたのは『鬼滅の刃 遊郭編』OPテーマ Aimer「残響散歌」。アニソンがビルボード年間総合チャート1位を獲得するのは初であり、さらに年間ベスト10のうちアニメ主題歌が4曲ランクインするなど、アニソンの勢いは日本でも世界でもとどまることを知らない。

 

 そんなアニメ / アニソンの素晴らしさが多くの人々に届いている一方で、アニソン業界をずっと追っていた身としては、2022年のアニソンシーンは5年前に思い描いたものとはまったく違った景色になってしまったと感じている。

「現在のアニソンの生態系はめちゃくちゃになっている」

この言葉を耳にしたのはどこだっただろうか。しかし、この言葉はアニソン業界の現在の状況を的確に表しているのではないだろうか?

 

 現在のアニソンの立ち位置、そして現状はどうなっているのか。今回は、そんな「現在のアニソン生態系」、そして今後について、備忘録も兼ねて書き記していく。

 

 

歴代アニソンの流れと大まかな傾向

 

 まず「アニソンの現在」を語る前に、アニソンの歴史を知っておく必要がある。簡単にではあるが、サラッと振り返ってみよう。

 

70年代~00年代のアニソン

 アニソンが「漫画の歌」「アニメの歌」と呼ばれ、数十万枚売れても見向きもされなかった昭和の時代。それがアニソンの出発点だった。1970年代の「マジンガーZ」や「宇宙戦艦ヤマト」といった『アニメタイトルを連呼するアニソン』から、その流れを継承しつつ「CAT'S EYE」や「タッチ」「Get Wild」といった一般アーティストとアニソンが邂逅した1980年代を経て、「一般アーティストによるタイアップ隆盛期」となる1990年代を迎える。『るろうに剣心』の「そばかす」がよく槍玉に挙げられるが、アニメの内容とまったく関係ない楽曲が多かった時代だった。アニソンファンの中には、この時代を暗黒時代と揶揄する人もいる。(とはいえ、その時代に「残酷な天使のテーゼ」が出ていたりもするのだが)

 

 そんな1990年代の反発からか、「アニメの世界観と音楽性の両立」が2000年代の一つのキーワードとなり、作品と親和性の高いアニソンが多く生まれることになる。2000年に立ち上げられたアニソン歌手たちによるユニット・JAM Projectはその最たるものだろう。

 そして日本最大のアニソンフェス「Animelo Summer Live」が2005年にスタートし、2009年には水樹奈々が声優として初めてNHK紅白歌合戦に出演する。声優のアーティスト活動は昔から数多く行われているが、定期的にライブをこなす声優アーティストの存在がアニメに興味がない人たちにも認知され始めたのはおそらくこの頃からだ。

 他にも、『魔法先生ネギま!』OP「ハッピー☆マテリアル」、『涼宮ハルヒの憂鬱』ED「ハレ晴レユカイ」、『らき☆すた』OP「もってけ!セーラーふく」、『けいおん!』ED「Don't say "lazy"」といったキャラクターソングがヒットチャートを賑わせ始めたのもこの時代から。もちろん90年代から引き続き、一般アーティストの歌うアニソンも存在している。J-POP、ロック、アイドル、電波など、音楽ジャンルのごった煮感がますます強くなっていくのだった。

 

2010年代以降のアニソン

 それでは2010年代、そして2020年代初期はどう形容すればいいか?少なくとも「〇〇の時代」という一言では片づけられないが、大きな特徴として2つの点が挙げられる。

 

 1.キャラクターソングの更なる活発化

 アニメの楽曲をその作品のキャラクターが歌唱する、いわゆるキャラクターソングがさらに増えたのがこの年代だ。代表的な例の一つとして、音楽を扱った作品の流行が挙げられる。

 『ラブライブ!』『アイドルマスター』『うたの☆プリンスさまっ♪』『アイドリッシュセブン』『アイカツ!』『ゾンビランドサガ』といったアイドルもの、『BanG Dream!』『Angel Beats!』『SHOW BY ROCK!!』などのバンドを扱った作品、さらに『マクロスΔ』『戦姫絶唱シンフォギア』のようなバトルと音楽を掛け合わせたものから、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のようなミュージカル作品まで、様々な形で音楽を絡めた作品が放映された。主題歌だけでなく挿入歌も積極的に展開され、作中でキャラクターたちが歌ったり踊ったりするシーンは最早アニメ作品の定番になりつつある。

 

 キャラクターソングの増加は体感だけではなく数字にも表れている。2001年〜2022年までに放映されたTVアニメのうち、全話数の中で2回以上流れたOP/ED主題歌の曲数を、歌ったアーティストの属性毎にまとめたのが下のグラフ、そしてその集計表である。そのため、毎話変わるEDテーマなどは集計していない。小数点があるのは、水樹奈々×T.M.Revolutionのようなコラボの場合で、属性が違う場合はそれぞれに0.5ずつ振っている。

 

 2013年のキャラクターソングの数は113.5曲で前年から約倍増。2020年以降はやや右肩下がりではあるものの、100曲前後で推移しているためあまり変わらないと言えるだろう。さらに、現在のキャラソンはアニメ主題歌以外で使われることが圧倒的に多く、特にアプリゲームやメディアミックス作品から生まれたキャラソンが話題となることも日常茶飯事。キャラソンの存在は現在のアニソン業界にはなくてはならないものだ。

 声優アーティストについても同様だ。毎年10組以上の声優がアーティストデビューを飾っており、2013年の主題歌担当数は前年の倍となる92曲を記録。自身が出演するアニメの主題歌を歌う、デビューさせた後に売り出すためにタイアップを使うなど、レコード会社や制作側の様々な思惑もあるだろうが、00年代と比べると明らかに数字の上では増えている。2020年以降は幾分か減少しているものの、下げ幅としてはそれほど絶望的ということでもないだろう。

 

 2. アニソン歌手のアニソンタイアップの隆盛、そしてその勢いの減退

 一方で、アニソン歌手はどうだろうか?

 先述したように、アニソン歌手は日本のアニメ放映初期からいる存在だが、2000年代後半から大きく認知度を上げることになる。その一つの要因として、2008年に始まった「アニソングランプリ」という、グランプリを獲得したらアニメタイアップ付でデビューできるという全国オーディションの存在は無視できない要素だろう。他にもアニサマやANIMAX  MUSIXといったアニソンフェスの拡大などもあって、アニソン専門シンガーが若い世代にもフィーチャーされるようになった。

 00年代は多くても90曲程度の担当だったアニソン歌手だが、上述した勢いもあり、2012年には一気に127曲を記録。そこから毎年110〜120曲前後で推移していくことになるが、2019年頃から勢いが陰り始め、現在では00年代と同程度まで落ち込んでしまう。

 

 それらの落ち込みとは対照的に、ずっと数字が安定しているのが一般歌手の歌うアニソンだ。2015年には全体の3割程度だったが、現在は約4割程度まで回復。実質的にキャラソン・声優アーティスト・アニソン歌手の減少分を吸収するような形になってきている。

 総合的に見ても、10年前のアニソンの生態系と、現在のアニソンの生態系は全く異なるのだ。では、なぜこのような状況になってしまったのだろうか?

 

 

現在のアニソン生態系の原因考察

 

 筆者の考えとして4つほど推論を挙げてみる。

 

1. 若い世代や一般層へのアニメ文化の浸透

 ニコニコ動画の流行や『けいおん!』の社会的なヒットがあった2010年頃から、アニメはどんどん一般的なものになっていく。ネット・スマホ普及による地域間の視聴格差の解消、SNSの普及による共感性の広がりなどもそれらを後押しした。2016年の『君の名は』の大ヒット、2019年からの『鬼滅の刃』の社会現象などが好例だろう。今の20代後半ぐらいから下の世代は、普通にアニメを抵抗なく視聴するし、オタク的にハマったとしても周囲に隠さない人も多い。オタク趣味がバレたら人非人として扱われていた世代の人からすれば、現在のアニメを取り巻く空気は当時から一変したと言っても過言ではない。

 若い世代や一般層にアニメ文化が浸透したということは、視聴人数も多くなっているということ。彼ら/彼女らを取り込むために、誰もが知っているアーティストを起用するのは自然なことだろう。現に、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のYOASOBI起用に関しては、若い世代へ向けたものであることがプロデューサーインタビューで明言されていたりする。

 

 そしてこの文化の浸透はリスナー側だけではなく、アーティストやクリエイター側にも起きている。90年代の「作品の内容を無視した一般アーティストによるアニメタイアップ」とは異なり、現在の邦楽のアーティストはアニメに対する拒否感がないため、アニメ作品に寄り添った楽曲をリスペクトを欠かさずしっかり書き下ろしてくれるのだ。

 もちろん、それはトップランカーたちだけではなく、売り出すためのタイアップ起用であてがわれたメジャーデビューしたてのロックバンドでも、新進気鋭のシンガーソングライターでも変わらない。アニソン歌手や声優、キャラクターが歌唱しなくても「主題歌が作品の内容に合ったものが聴ける」という状況は、アニソンリスナーとしてはある意味理想的な状況になってきているが、それだけアニソン歌手や声優にとってはライバルが増えているということでもある。

 加えて、ここ数年ではVTuberの主題歌歌唱もポツポツと出始めている。アニメファンとは近しい領域であるため、ここも数年後には主題歌歌唱のライバルにもなってくるだろう。

 

2. 本物志向と本物を呼べる環境

 1の話にも通じるが、昔は邦楽のトップランカーにアニメ主題歌を依頼しようにも、無下に断られることも多かった。そのため、職業作曲家に「○○っぽい曲」とオファーして作られた曲もあったりする。しかし現在はオファーをすれば昔に比べたら受けてくれる確率は高い。「○○っぽい曲」が欲しいなら○○に直接作ってもらえばいい。ある意味それは本物志向であり、本物を呼べる環境が整ったからこそでもある。『かぐや様は告らせたい』で、ラブソングの王様・鈴木雅之を起用したことは好例だ。

 それはアーティストやシンガーに対してだけでなく、クリエイターに関しても同様だ。最もわかりやすい例が『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』だろう。ラップをテーマにした作品の楽曲提供者に、Zeebra、Dragon Ash、KREVA、Creepy Nutsといったそのジャンルのレジェンドが名を連ねている。他にもクラブミュージックを扱った『電音部』でも、人気のトラックメイカーを数多く起用し楽曲を制作している。

 もちろん、アニソン歌手や職業作曲家の楽曲が決して劣っているわけではない。素晴らしい曲も数えきれないほどある。ただ、SNSの拡散力や話題性が重要視されるようになった昨今において、知名度の影響は無視できない場合もあるだろう。起用する側に立った場合、どちらを選びますか?という話になる。

 

3. サブスク・YouTubeの隆盛

 2010年代後半からの音楽業界の大革命、それはストリーミングサービス、いわゆるサブスクである。

 アニソンのサブスクに関する対応は、正直なところかなり遅く、現在でも解禁されていないアーティストや作品もあるくらいだ。権利や版権的な関係など事情があって難しい場合もあるとはいえ、サブスクが一般的になるにつれて、ライトな音楽リスナーは「サブスクにない = 存在しない」という認識になってきているのは、業界的にはかなり痛い部分である。

 アニメ・ゲームといった業界は、少し前まではクローズドな界隈だった。それがサブスクによって音楽の消費志向がカジュアルになり、突然J-POPのトップランカーや海外アーティストと同じ土俵で戦わなくてはいけなくなった。ランキング自体は昔からあるものの、サブスクの再生数というリアルな数字で1曲ごとに比較されるのはなかなか厳しい。他にも、YouTubeで公開されるMVやリリックビデオもかなり力を入れられるようになった。1曲ごとに動画を作るのは今では当たり前だ。

 

 そういう意味ではアーティスト/クリエイター自体にブランド力がこれまで以上に必要になってくるのだが、そのブランド力を上げるためには様々なことをしなければならない。アニメ主題歌を歌うアニソン歌手が、アニメ主題歌を歌うためにアニメ主題歌以外のこともしなければいけない。そんな遠回りな方法が、結果的に近道になっている現状は、リソースが限られている人にとってはなかなか難しい現実にもなっている。

 

4. グローバルを意識した大作の登場

 『呪術廻戦』『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』といった昨今のジャンプアニメが象徴的だが、アニメ化前から原作人気がある作品に関しては、日本だけでなく世界までも照準に含め、ただのヒットではなくメガヒットを狙うという傾向になってきている。そうなると、少なくとも国内でヒットさせるために有名アーティストを主題歌に起用しようと思う流れは必然かもしれない。

 もちろん、海外のアニメ視聴環境が整備されたという環境要因もあるが、「アニメはアニメ、漫画は漫画」といったアニメと原作の距離感ではなく、構成するすべての要素を一つの船として進め、密接に関わっていこうという意識に切り替わっている。原作者原案の映画オリジナルストーリーはその典型例だ。

 そんな作品を彩る要素の一つとして、アニメ主題歌もしっかりそこにフィットさせていこうという流れが生まれている。『ONE PIECE FILM RED』はその最たるものと言っていいだろう。そうなるとやはり話題性というのも重視される。

 

 

結局この状況は続くのか?

 2016年に筆者が発効した同人誌「アニソン歌手の需要は本当に声優に食われているのか?」でも同じような集計をしているのだが、その際の結論は「実数は増えているが、相対的な割合は減っている」というものだった。正直、当時の筆者はアニソン歌手の需要はそこまで下がらないのではないかと思っていた。

 しかし、今回の2022年までの結果を見ると、アニソン歌手については「2010年代に比べると、実数も割合も減っている」というなかなか厳しい結果となった。作品に合わせて様々なジャンルを歌いこなすオールラウンドさが求められていたアニソン歌手が、一つ以上の強みや軸を持ったスペシャリスト的な人でないと起用されづらくなったというのは、環境が激変してしまったが故の悩みどころでもある。

 

 究極的に言えば、アニメ主題歌は作品に合ってさえいれば誰が歌っているかは気にしないという人も多い。結局のところアニソンは音楽のジャンルではなく一つの区分けでしかないわけで、様々な音楽ジャンルがごった煮となっているカオスな土壌を楽しめるファンがいるというのも提供側からすれば大きな利点だ。なので、アニソン業界外のアーティストがアニソンを歌う流れはしばらくは続いていくだろうし、少なくとも1~2年は止まらないだろう。

 

 とはいえ、筆者はこれまでのアニソン業界を悲観一辺倒だけで見ていない。なぜなら、アニメ作品の放映数の多さ、そしてそのジャンルの多彩さを知っているからだ。極端な例を言えば、「米津玄師が『To LOVEる』の主題歌に起用されるか?」という話で、メガヒット作品以外にもアニメ作品は多いし、何がヒットするかわからないのがこの業界。数が多すぎて追いきれないというのはあるにせよ、裏を返せばそれだけチャンスがあるのもまた事実である。

 

 願わくば、アニソンについてはすべてのアーティスト/クリエイターが切磋琢磨し、質の高いアニソンを作り合える環境でいてほしいと、1人のアニソンファンとして切に願う。2023年以降も素晴らしいアニソンに出会えますように。